下前歯先天性欠如の矯正治療
歯が足りない下顎の先天性欠如に対する矯正治療の症例
上の前歯が出っ張っているのと、歯並びがデコボコしているのが気になるので治したいとの主訴で来院された13歳女性の患者さんです。
正面から観ると、上の前歯がねじれていたり、デコボコしている様子が確かに分かります。また、下の前歯が本来は4本あるはずですが、この患者さんには2本しかありません。(※2本は生まれつき足りない先天性欠如です。)
また、下の前歯が上の前歯に隠れるくらい、深く噛み込んでいます。このパターンは噛む力が生まれつき強いことがほとんどで、矯正治療において歯の移動を遅らせる原因にもなります。
そのため、これらの点は治療の難易度が高くなる要素です。患者さんと親御さんには、上記の理由から理想的な歯並びに持っていくことは困難であることをご説明の上、ご了承いただきました。
前後的な位置関係は悪くないのですが、上の前歯が著しく前方に突出しており、デコボコも著しいことから上の顎の歯を2本抜歯する必要があります。そのため通例にそって上の左右の第一小臼歯をそれぞれ1本ずつ抜歯することとしました。
矯正治療開始から3ヵ月
矯正治療開始3ヵ月目です。最初に上の第一小臼歯を抜歯し、犬歯だけを後ろに引っ張ってから全体に矯正装置を装着しました。犬歯は既に歯を抜いたスペース分だけ後ろに移動しています。
矯正治療開始から7ヵ月
矯正治療開始7ヵ月目。上顎の歯がだいぶ並んだことで、もともと深かった噛み合わせが少し高くなりました。そこで下顎にも矯正装置を装着することができました。
矯正治療開始から2年3ヵ月
矯正治療開始から2年3カ月目。最初に比べるとかなり下の前歯が見えてきています。深く噛みこんでしまっていた噛み合わせがだいぶ高くなりましたが、ここまで来るのに著しい時間と労力がかかりました。ここからさらに歯と歯の間に生じたスペースを閉じるとともに噛み合わせを整えていきます。
矯正治療開始から3年/矯正治療完了
矯正治療開始から3年。コロナの影響もあり、通院がままならない時もありました。また、この患者さんの噛む力が生まれつき強大であること、下の前歯が生まれつき欠損していること、歯磨きが毎回できていないことなど、難症例であったがために予想より時間がかかってしまいましたが、無事に治療が完了しました。
患者さんは年齢的にも多感な時期で、途中くじけそうになっていたこともありましたが、励ましながら何とか最後まで頑張っておられました。患者さんはいつもほとんど無表情でしたが、最後の歯並びを見た瞬間ににっこりと笑みをうかべてくださったのを初めてみたとき、感無量でした。
歯の保定/定期観察
矯正装置が外れた後は、必ずリテーナーを使用していただきます。製作は矯正専門歯科技工会社ASOインターナショナルに依頼しました。
リテーナーを使用しないと歯が後戻りしてしまうので、あとは定期観察をしながらチェックしていきます。
年齢/性別 | 13歳女性 |
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治療期間 | 3年 |
治療回数 | 55回 |
治療費 | 980,000円(税込1,078,000円) |
リスクなど | ・治療後の歯並びはある程度は予測がつきますが、完全に当てることは不可能です。 ・矯正治療後の歯並びの見え方は一律ではありません。これは、元々の歯の状態、歯並び、骨格など、人それぞれで状態が違うためです。つまり、顔がひとそれぞれ違うように、歯並びも個性を反映したものになります。 ・必ずしもご希望の歯並びになるとは限らないため、担当医とよく相談し、イメージをすり合わせておくことも大切です。 ・歯の移動に伴って一時的な痛みが出る場合があります。 ・歯がもともと骨に癒着していて動かない場合が稀にあります。 ・虫歯、歯周病の発生や歯根吸収のリスクがあります。 ・甘いものを食べたり飲んだりする習慣がある場合や、もともと歯ブラシ、デンタルフロスのやり方が良くない場合、虫歯や歯周病のリスクが高まります。 ・治療後に歯肉が下がる場合があります。 ・治療後はリテーナーを使用しないと歯の後戻りの可能性が高いです。 |