マイクロスコープを用いた精密根管治療の症例
マイクロスコープを用いた精密根管治療の症例
こちらの患者さんは、半年前に当院にて歯の神経を温存し、セラミックインレーを入れた部分に違和感を感じるとの主訴で来院されました。セラミックを入れる前から噛むとグニュグニュして違和感があり、さらにしみる感じも消えないとのことでした。
診断の結果、歯の神経に炎症があり、神経を取らなければいけない状態と考えられました。患者さんと相談した結果、マイクロスコープを用いた精密根管治療を行い、やむを得ず歯の神経を取ることにしました。
根管治療の実施
マイクロスコープで視野を拡大、口腔内の細菌が侵入しないよう、ラバーダムというゴム製のシートで当該歯を隔離し、精密な根管治療を実施します。
最初にラバーダムをかけてヨードで消毒をします。ところどころ茶色く見えるのがヨードです。この消毒方法は全身の手術と同じ方法を採用しています。
また、歯の周りにはラバーダムシートとのすき間を埋めて唾液が一切入らないようにする特殊なお薬を貼り付けています。
消毒完了後、マイクロスコープをのぞきながら慎重に歯の中央部分を削っていきます。
通常は詰め物を全て除去しますが、今回は半年前に当院で虫歯をしっかり除去していることから、あえてセラミックを残して細菌が侵入しにくいよう「壁」として利用しました。
歯の神経が露出したことを確認します。細い器具がスルスルっと入っていく様子が分かります。また、歯の神経が露出しているにも関わらず、出血がほぼないことから、既に歯の神経が破壊されていることが分かりました。まだ歯の神経の入り口は全部露出していないため、方向を確認しながら入り口を拡げていきます。
ニッケルチタンファイルを用いて根管の拡大形成・消毒
ニッケルチタンファイルを用いて根管を形成していきます。ニッケルチタンファイルは、保険診療で使用されるステンレスファイルと違って柔軟性があり、曲がった根管にも比較的正確に追随してくれるので、歯にもやさしい治療器具です。
ただし、非常に繊細な器具のため、扱いが難しいです。そのため、常に用心しながら丁寧に作業を進めていきます。
根管充填
細菌の繁殖スペースを残さないよう、空洞になっている根管を充填していきます。当院のマイクロスコープを用いた根管治療では、米国の根管治療専門医が主流にしている垂直加圧充填を採用しております。右の写真が根管充填完了時の状態です。
精密根管治療の完了
治療開始からレントゲン撮影まで、このケースは50分程度で終わりました。※この後、土台とかぶせ物を入れたらこの歯の治療が全て完了します。
レントゲン写真に写った白い線(根管充填材)が赤い線のように左上に曲がっています。一般の方は黄色い点線のように、歯の神経はど真ん中を通ってレントゲンで写る歯根の先(黄色い矢印)が出口だろうと考える方が多いようです。
しかし、この歯の実際の神経の出口は青色の丸部分(青色の矢印)で、そこから先が歯の外です。これは機械で測定した際に確認した位置でもあります。このように、レントゲンに写る歯根の尖端と、実際の根管の出口は必ずしも一致しません。これは昔から論文でもたくさん報告されていることですので問題ありません。
また、実際の神経の出口(青色の矢印)よりも少し外(赤色の矢印)まで根管充填材が出ていますが、これは垂直加圧充填によるものです。ただ、根尖外に出る量はわずかであり、この点も過去の論文データ上でも経験上でも問題ないことが分かっています。
年齢/性別 | 50代女性 |
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治療期間 | 1日 |
治療回数 | 1回 |
治療費 | マイクロスコープ根管治療79,200円(税込) |
リスクなど | ・5~10%の確率で将来歯根が膿んでくる可能性がある。 ・ごく稀に、もともと歯根に亀裂が入っており、治療しても改善しない場合がある。 ・歯の神経が非常に細いケースでは、場合によって完全に根管が閉鎖して治療しきれないこともあり、その場合は治療の成功確率が下がる可能性がある。 【注意点】根管治療だけでは治療は完結しません。通常はこの後、土台とかぶせ物が必要となります。費用もその分追加になります。 |