歯根に開いていた穴を根管治療によって修復した症例
歯根に開いていた穴を根管治療によって修復した症例
「右下の歯が噛むと痛い。長年ずっと違和感がある」との主訴で来院された50代女性の患者さんです。
お口の中を拝見すると、問題の歯がわずかに揺れていました。そこでレントゲンを撮影したところ、歯根の先に根尖病変(歯の根っこ部分に生じる病気の総称)がありました。
赤い矢印で示したレントゲンに写っている白い部分は金属の土台です。歯根の直径の3分の2以上を占める太さ、そして歯の全体の長さの半分であることが分かります。
このことから、残っている歯の部分が普通よりも少なく、大変厳しい状態であることが分かりました。このような場合、通常は「治療ができない」と言われてしまうことがほとんどです。
また、根管充填が青い部分で止まっています。本来は黄色の線まで入っているのが望ましいですが、何かしらの事情があって充填材が入らなかったものと考えられます。
そして歯根の先の薄く赤く塗りつぶした部分は根尖病変と呼ばれ、炎症があることを示しています。このような大変厳しい状態ではありましたが、ご本人の「できるだけ歯を抜きたくない」という強いご要望から、精密根管治療を行い、症状を改善することになりました。
当該歯部分の口腔内写真
ただ、かぶせ物を入れてから20年以上経過しているとのことで、歯肉が下がって歯根の一部が露出していました。また、歯自体もわずかに揺れて動くことが分かりました。
当該歯のかぶせ物・土台を除去
土台の金属を除去していきます。こちらも5倍速コントラにて回転数を抑えながら、不必要な部分を削らないよう、できるだけ繊細に除去していきました。
土台を慎重に外していくと、歯根に穴が開いている箇所を発見しました。これはレントゲンでは写っていなかった部分です。
どのような経緯で穴が開いたのかは分かりませんが、状況は良くありません。通常は歯根に穴が開くと治りにくいことが知られているからです。そしてこの歯の違和感の原因の1つがこの穴かもしれない、ということが分かりました。
隔壁の作成・ラバーダムの設置
根管治療の実施
根管内の内容物を全て取り除き、洗浄・消毒も終えました。この写真の時は3回目の治療でしたが、この日の治療前に患者さんが「長年の違和感が消えた」とおっしゃっておられたので治療効果が出ていることも実感できました。
封鎖性に優れたMTAセメントを用いて、大きく開いている根尖孔を封鎖するとともに、根管充填を行いました。また、歯根の側面に開いていた穴も一緒に修復しました。
根管治療後のレントゲン画像
年齢/性別 | 40代女性 |
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治療期間 | 1ヵ月 |
治療回数 | 3回 |
治療費 | マイクロスコープ根管治療(小臼歯) 90,000円(税込99,000円) MTAセメント加算 22,000円(税込24,200円) |
リスクなど | ・金属の土台を外す際に歯根の薄い部分に穴が新たに空いてしまったり、歯が折れる危険性がある。 ・将来歯根が再び膿んでくる可能性がある。特に歯根に穴が開いているケースは再発率が通常に比べて高い傾向にある。 ・ごく稀に、もともと歯根に亀裂が入っており、治療しても改善しない場合がある。 ・歯根の外にまで感染が広がっていると歯根端切除術を追加で施術しなければならない場合がある。 【注意点】根管治療だけでは治療は完結しません。通常はこの後、土台とかぶせ物が必要となります。費用もその分追加になります。 |