抜歯寸前の歯を再植術によって保存した症例
抜歯寸前の歯を再植術によって保存した症例
▼抜歯リスクの高い歯根先端部分に膿が溜まる症状(根尖病巣)を、再植術によって改善した症例をご紹介します。
①初診時の口腔内
50代女性。左上のブリッジ(銀歯)が痛くて噛めないとのことで来院されました。
レントゲン撮影をしたところ、一番奥の歯と銀歯の間が黒くなっているように見えます。どうやら銀歯の内部で虫歯になっている可能性が考えられました。また、歯根の先に大きな黒い影が見えたため、膿んでいることが予想できました。
より詳しく検査した結果、歯根周辺に「病巣」を確認しました。
赤く囲った部分が膿んでいる部分です。かなり大きいサイズであることが分かります。一般にこのような病巣は大きいほど治りが悪いことが知られています。
そのため、治療前から非常に厳しい状態であることが想像できました。
②根管治療(歯の根の治療)の実施
患者さんは「インプラントはしたくない」とのことでしたので、ブリッジで咬み合わせを回復する治療計画を立て、先ずはマイクロスコープを使用して根管治療を行いました。
③ファイバーコアを装着
ファイバーコアを装着したところです。手前の歯は仮歯をひとまず作りました。一番奥の歯は病巣が大きいので治りにくいと予想されました。そのため、できるだけ治りを良くするべく、半年ほどはあえて噛めないようにして安静を図りました。
⑤再植術の実施
意図的に歯を抜いたところです。歯を抜く際も、気をつけないと歯が折れてしまう危険性があるため、慎重かつ丁寧に抜歯しました。
抜いた歯を見ると、歯根の先が黒くなっています。ここを中心に炎症が広がっていることがわかりました。乾燥させないために生理食塩水で湿潤状態を保ち、歯の表面の歯根膜細胞をできるだけ死滅させないよう、最大限の注意を払っています。
念のため、さら1ヵ月ほど経過を見ましたが問題なかったため、歯型を取って本歯の製作に取りかかりました。
⑥ブリッジの製作
金属アレルギーがあるため、金属を一切使用しないジルコニアSクラスブリッジを選択されました。製作はジルコニアセラミックス東京の齋藤氏です。いつもながら歯の解剖学的な形がしっかり再現されています。同時に機能的にも患者さんご自身でケアしやすいよう設計してあります。
ブリッジの内面です。歯とのつなぎ目がきれいな曲線となり、一筆書きで明確にたどれるようになっています。歯科医師と歯科技工士双方の技術が合わさらないとこのような滑らかな線や面にはなりません。
これを実現することで、歯とブリッジの境目にできる隙間を10数ミクロンレベルにまで狭めることが可能となり、虫歯や歯周病のリスクを最小限に抑えることができます。
⑦セラミックブリッジを装着して治療完了
ブリッジを装着したところです。違和感もなくなっており、見た目もきれいになりました。
「時間はかかったものの、頑張って治療して良かった」と患者さんにも大変満足いただました。「インプラントせずに歯を作りたい」というご要望にお応えできて私も安堵しました。
年齢/性別 | 50代女性 |
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治療期間 | 11ヵ月 |
治療回数 | 11回 |
治療費 | マイクロスコープ根管治療(小臼歯) 90,000円(税込99,000円)×2本 ファイバーコア 26,000円(税込28,600円)×2本 ジルコニアクラウンSクラス 147,000円(税込161,700円)×3本 再植術 100,000円(税込110,000円) |
リスクなど | ・根管治療した歯が再度炎症を起こす可能性がある。 ・意図的に抜歯する際、歯根が破折するリスクがある。 ・再植した歯が定着しない場合があり、定着しても歯根吸収や炎症の再発が起きる場合もある。 ・ブリッジのセラミックが欠けたり割れる可能性がある。 ・長期使用によるブリッジの経年劣化によって交換する必要が出る可能性がある。 |