精密根管治療によって他院で抜歯と診断された歯を保存した症例
精密根管治療によって他院で抜歯と診断された歯を保存した症例
奥歯が鈍くうずいたままで噛めない。前の歯医者さんで「抜歯しなければいけない」と言われてしまった。抜きたくないが、何とかならないか?ということで私(小泉)を指名して来院された60代女性の患者さんです。奥歯に仮のセメントが入っていて、外側の歯肉が腫れています。膿の出口(サイナストラクト)もありました。
CT撮影をしました。歯根が2つありますが、両方ともほとんど歯根周囲を取り囲むような黒い像(黄色の矢印)があります。黒い像は、歯の周囲の顎の骨が溶けている部分です。ここまで顎の骨が溶けてしまっていると、歯を残せる確率はかなり低くなってしまいます。そのため、ほとんどの歯医者さんが「抜歯」と診断しますが、それはごく普通のことなのです。
歯根の尖端付近に、昔の治療で折れ残った器具があることもCT画像から判明しました。
これだけの悪材料が揃っているため、精密根管治療を行ったとしても歯を温存できる確率は相当低い、と予測されました。
それら全てを患者さんにお伝えした上で、治らない可能性も重々承知の上で治療に踏み切ることとなりました。
根管治療の実施
マイクロスコープで視野を拡大、口腔内の細菌が侵入しないよう、ラバーダムというゴム製のシートで当該歯を隔離し、精密な根管治療を実施します。
最初にラバーダムをかけてヨードで消毒をします。ところどころ茶色く見えるのがヨードです。この消毒方法は全身の手術と同じ方法です。また、歯の周りにはラバーダムシートとのすき間を埋めて唾液が一切入らないようにする特殊なお薬を貼り付けています。
精密根管治療終了から半年後
【治療前】
【治療後】
精密根管治療終了から半年後に再度CT撮影をしました。治療前(上側)と治療後(下側)のCT画像を比較すると、顎の骨が完全に再生していることがわかります。
最終的なかぶせ物の作成
かぶせ物(オールセラミッククラウン(emax))を製作しました。製作は経験豊富なジルコニアセラミックス東京の齋藤氏に依頼しました。
かぶせ物を入れる直前の状態です。歯の一部が黒く見えますが、これはMTAセメントの影響であり、虫歯ではありません。
治療完了
かぶせ物(オールセラミッククラウン(emax))を装着したところです。10ヵ月ほどかかりましたが、抜歯を免れ、症状も無くなり、無事に歯が入ったことで大変喜んでいただけました。
年齢/性別 | 60代女性 |
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治療期間 | 10ヵ月 |
治療回数 | 7回 |
治療費 | CT撮影診断料11,000(税込) マイクロスコープ根管治療(大臼歯) 110,000円(税込121,000円) MTAセメント加算 22,000円(税込24,200円) 破折器具除去加算 20,000円(税込22,000円) ファイバーコア 26,000円(税込28,600円) emaxクラウン 115,000円(税込126,500円) |
リスクなど | ・将来歯根が折れる可能性がある。 ・精密根管治療をしても治らない、あるいは再発する場合がある。 ・根管内にある破折器具を除去できない場合がある。 ・歯根が曲がっている場合、治療器具が途中で破折するリスクが高まる。 ・セラミックが割れたり欠けたりする可能性がある。など |